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2023.04.12

#8 太陽に素直に建てる パッシブ設計

パッシブ設計の基本的な考え方を一言で言えば、太陽の光や熱、通風といった自然エネルギーを利用して心地よく暮らせる住まいを作るための設計手法のことです。
設計の基本とも言えますが、実現するには知識と経験+シュミレーションによる根拠が必要なので、案外設計の実力が試される部分です。
パッシブ設計の醍醐味は、周辺環境などの立地条件が一つ一つ違う土地に対してベストの答えを導き出すこと!
具体的にパッシブ設計では、どのような点をポイントに設計しているのか書いてみたいと思います。


 
詳しいお話はこちらのYouTubeでも話しているのでぜひご覧ください。

 

■パッシブ設計の5つの要素

自然エネルギーを活用するパッシブ設計は、5つの要素が重要と言われています。

 

 

断熱
パッシブ設計では、建物の断熱性能と気密性能が一定以上の性能であることが重要です。
なぜ断熱性能が重要かというと、太陽の熱をコントロールするためです。
夏は暑い太陽の熱が家の中に伝わらないようにし、逆に冬は太陽の熱を取り入れてその熱が逃げないようにするため、建物の性能はそれを叶えるために必要不可欠な要素となります。
目安として、断熱性能はUa値で0.46以下が望ましいです。
気密性能も同じく、夏の暑い空気が隙間から入ってこないように、冬の冷たい空気が外から入ってこないように、暖まった室内の空気が外に逃げないようにするため、高性能にする必要があります。
気密性能は長期的にC値1.0を維持したいので、新築時は0.5以下が望ましいです。
 

断熱

 

日射遮蔽
日射遮蔽とは、太陽熱を遮ることです。
建築ではイータ―AC値(ηAC値=窓から直接侵入する日射による熱と、窓以外から日射の影響で熱伝導により侵入する熱を評価した指標)というものがあり、この数値が低いほど夏の日射がより入らないということになります。つまり冷房期の平均日射熱取得率は事前に計算で知ることができます。
夏の暑い日差しを遮る設計は、パッシブ設計の基本です。
南面の対策は、屋根の形状や軒の出、庇によってコントロールが可能です。対策をすることで、夏場に窓から大量の太陽熱が入り室温が上がってしまうことを防ぎます。
西日に対しては、太陽高度が時間とともに変化していくので、軒の出などでコントロールすることには限界があります。外付けシェードやよしずなどで対策をするか、外に付けられない場合は、室内側にハニカムブラインドをつけて対策するのがおすすめです。
外に付けると7割、内に付けると3割、日射熱をカットできると言われています。

 
軒の出
 

日射取得
夏は日射遮蔽で太陽熱を防ぐお話をしましたが、冬はその逆です。
太陽エネルギーを上手く取り込み、室内の暖かさを保つ工夫をします。
建築ではイータ―AH値(ηAH=暖房期の平均日射熱取得率)と呼ばれ、数値が高いほど日射が入りやすく、暖かいことを示します。冬に室内に入る日射量を外皮面積で平均した値です。
冬に太陽熱を室内に取り込むことで、室温が上がります。そして暖房時のエネルギー削減に効果があります。
北陸ではトリプルサッシの日射取得型を南面の窓に採用するのがベストだと考えます。

 
日射取得
 

昼光利用
自然光で明るい空間を作ることもパッシブ設計で大事な要素です。
ここで重要なことは、自然光利用も日射遮蔽も日射取得も敷地条件によってそれぞれ違うということです。
建築予定地の調査をするときには、周りの建物との関りも含め細かく確認する必要があります。
周りの建物の大きさは?形は?窓の位置は?距離は?といった具合です。
チェックをしたら、3Dで立ち上げ、季節別・時間別の日照シュミレーション、日射遮蔽・日射取得シュミレーションを行い検証します。そして光・熱の入り方を確認して、適切な軒の出、窓の位置・大きさを検証することが大事です。
 
日当たり
 

通風
天窓や高窓を設けて、建物内に風の通り道を作るということです。
水平方向と上下方向で考える必要があります。
通風用の窓の大きさや形状・位置は、風の通り道を予測しながら考えていきます。
上の方と下の方に窓を取ることで、風が吹いていなくても室温を下げることができます。
これは『暖かい空気は天井に昇る』『冷たい空気は床に溜まる』という、空気の特徴を利用する考え方です。
建築ではこれを温度差換気と呼びます。
天窓や高窓、サッシ、吹き抜けなどを必要な場所につけることで、風を自然に、かつ効率よく利用して快適な温度を保つことができます。

 
高窓
 

■まとめ
パッシブ設計と言葉で聞くと馴染みがなく、難しく感じるかもしれません。
でも内容は至ってシンプルであたりまえのこと。
自然と風が通り、明るく気持ちのいい部屋で、1年中快適に暮らすための設計手法です。

周辺環境を理解し、高気密高断熱の建物にする努力を惜しまず、5つの要素を複合的にしっかり考え、検証した上にパッシブ設計は成り立ちます。
家を建てる上での基本的な設計ではありますが、その中には細かなテクニックが隠れています。
みなさんもぜひパッシブ設計を取り入れてみてください。

 

■ 最後に
このコラムでは、家づくりや建築に関する知識や情報を発信しています。
毎日何か所もの現場を飛び回る現役現場監督の代表荒木が、知っておくべき専門的な建築に関するあれこれを綴ります。
建てる前も住んでからも・・みなさんの豊かな暮らしのお手伝いができると嬉しいです。

 

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最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
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